女二十一人の集団リンチ


二章

 そのコインランドリーは、あまり活気のない中規模なスーパーマーケットに属していた。

 近くには樹木の多いさびしげな運動公園があり、あまり使われていないテニスコートには、雑草がおい茂っていた。

 平日の午後三時という時間帯のせいか、人の姿はまばらであり、ときおり買い物客の主 婦が足早に通りすぎるぐらいである。

 “痴漢に注意”の看板は、ざっと見ただけで三枚あった。

 * * * *


 「ちょっと!あなたたち、なにやってるの!?」
 たまたま近くを通りすぎた買い物客の女性が、コインランドリーの異様な雰囲気に気づいて、声をかけてきた。
 ママチャリの前と後ろに二人の幼い子供を乗せた彼女は、飯尾絵美子(36歳)という名前の、 上品そうな主婦である。
 彼女は柔和な顔に困惑を浮かべ、俺たちの様子をしばし観察した。

 もう一人、やはりスーパーのビニール袋を下げた女性が、近づいてきた。
 小学校高学年ぐらいの娘を連れた彼女は、水谷綾子(31歳)という名前だった。
 彼女は主婦のくせに、明るくそめた髪を、背中にまでのばしていた。

 飯尾絵美子と水谷綾子は、ちょうど俺が女子高生のレイナの髪をつかみ、 まるで凶悪犯が人質を取るみたいに彼女の身体を抱き寄せる様を、目撃した。

 「ちょっとちょっと!なにやってるの!!」
 飯尾絵美子が鋭い叫び声をあげた。

 「こいつ、チカン!!」
 と、女子高生のリーダー格、ゆかりが叫んだ。

 「助けてー!」
 と、金髪のレイナも悲鳴を上げる。

 「ちょっと!昼間っから、なんてことしてるのよ」
 元ヤンキーあがり、といった雰囲気の水谷綾子が、ダッシュしてコインランドリーの中に飛び込んできた。

 「助けて下さい!」
 「この人がわたしたちに乱暴するんです」
 「お願いします!!」
 その女子高生の変貌ぶりに、腹を立てている暇はもちろんなかった。

 小柄で力も弱いはずの水谷綾子は、ひるむことなく、身長178センチの俺に突進してきたのである。

 彼女は、えぇぇいっ!と言って、俺の顔を叩いた。
 女子高生のレイナは、その隙をついて逃げだし、水谷綾子の後ろにかくまわれた。

 そのころには、もう一人の主婦、飯尾絵美子が大声を出して、さらに別の援軍を呼んで しまっていた。

 血相かえて叫ぶ彼女に、わけの分からないまま呼び寄せられたのは、近くのテニスコートでストレッチなどの 運動をしていた秦野麻里(27歳)。

 そして、コインランドリーの騒ぎに気づいて、急いでショッピングを切り上げて戻ってきた、 並木瑞恵(32歳)と美穂(10歳)の母娘。
 言うまでもなく二人は、俺が今回洗濯機の中からいただいた、下着の持ち主である。

 時間と場所からして仕方がないが、集まってきたのは全員が女性だった。
 当然、すべての人間が、痴漢と聞いただけで激しい拒絶反応を示した。

 俺は何か言おうとしたが、非難する女たちの声、声、声・・・・・・によって、たちまち封じられてしまった。
 ずる賢い女子高生四人組は、してやったり、という顔でうなずき合った。

 女子高生のゆかりは、大人の女たちから充分に同情が集まったのを見て、ようやく口を開いた。
 その口調は、さっきまでの不良少女とはうって変わった、優等生のものだった。

 「わたしたちがたまたま通りかかったときに、ちょうどこの人が下着泥棒をしていて、やめる ように注意すると、反対に暴力をふるったんです」

 「スカートをめくったり、胸を触ろうとしたのよ」
 レイナが同調し、さとみ、マユの二人も、それを事実として認めた。

 俺はおどろいて女子高生たちの顔を見つめた。
 なんで、そんな嘘を言うんだ!!俺はそんなことはしていないし、だいたい暴力というなら、 お前たちの方がよっぽど暴力的じゃないか。

 だが、もちろん女たちの耳には、そんな俺の言いぐさなんてこれっぽっちも入らず、“被害者” である女子高生の話にしきりと相づちをうった。

 そして、主婦の水谷綾子が、娘の早紀の頭に手をのせて、こんなことを言った。
 「すぐに警察を呼ぶから。ここの公園に痴漢が出ることは、みんなよく知ってるわ。げんに、うちの 早紀は一年前に被害にあい、あわや、というところまで行きかけました」

 「まあひどい」
 と、優等生の声でゆかりが言った。
 「こんな小さな子にまで手を出すなんて」

 「警察に電話を!!」
 興奮した女の一人が、そう叫んだ。

 「わたし、電話してきます」
 トレーニング用のジャージを着けた秦野麻里が俊敏にかけだし、すぐ近くの公衆電話に110番通報し にいった。

 ちょっと待ってくれ!俺はそんな痴漢じゃないんだ。俺の話も聞いてくれっ!

 「警察が来てから、ゆっくり聞いてあげるわ」
 二人の子供を連れた主婦の飯尾絵美子が答えた。

 だれが音頭をとるまでもなく、女たちの包囲の輪がちぢめられ、俺はそのまん中に正座 させられてしまった。
 こわい顔や、あきれた顔、軽蔑する顔で睨む女たちにまぎれて、女子高生の四人が、 小さく舌を出したり、クスクス笑ったり、アッカンベーをしたりするのが見え、俺のはらわた は煮えくりかえったが、どうすることもできない。

 やがて、秦野麻里がスーツ姿の女を一人連れて戻ってきた。
 「電話しました。警察は、三十分ぐらいかかるそうです」

 「わたしはここのスーパーの責任者をしています、杉浦咲子(41歳)と申します」
 スーツ姿の女が言った。
 いかにも仕事に厳しい女、といった雰囲気の彼女は、その場にいる全員に向かって、 丁寧に頭を下げた。

 「今日はこんなことになってしまい、申し訳ありません。うちの店長には、後ほどお詫びをしに うかがわせますので、とりあえず警察が来るまでもうしばらくこのままお待ち下さい」

 「本当に、冗談じゃないわ!」
 元ヤンキーの主婦、水谷綾子が言った。
 「こんなんじゃ、安心して買い物もできゃしないわよ」

 「申しわけありません」

 「いいえ、お店の人が謝ることではないわ」
 秦野麻里が、厳しい目で俺を睨みつけた。

 「わたしはこの近くのマンションに住んでいるのですが、一階のせいか、よく下着などを盗まれます。 ですが、悪いのはあくまでも痴漢をする男の方です」

 「そうよ。女が謝ることじゃないわ」
 主婦の飯尾絵美子が言った。

 正座する俺を見ながら、女たちがうんうんとうなずき合った。

 このとき、俺は警察が来れば、まだ言い逃れできると思っていた。
 しかし、それはとんでもない誤りだった。


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