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ざんげの部屋

3章

 そこへ、深谷美雪がもどってきた。
 新しい女を連れていた。

 霧島由起子という名前の四十女で、かつて理事長室の秘書をしていた女性である。
 秘書になる前は、国際線のCAをしていたという経歴の持ち主であり、四十を過ぎても化粧をすると色気があった。
 俺がおととしクビにして以来、会うのはこれが初めてである。

 「まさみちさん、お久しぶり」
 と、元秘書の女は言った。
 「わたしのこと覚えてる?」

 「なんで連れてくるんだ!!」
 俺は、深谷美雪を怒鳴りつけ、それから霧島由起子に言った。
 「ここは、お前の来るところじゃない。すぐに帰りなさい!!」
 俺は、せいいっぱい胸を張り、元秘書に命じた。

 しかし、天井からロープで吊り下げられた格好では、威厳も何もあったものではない。
 案の定、元秘書はひるまず、かえって俺の前にしずしずと歩み出た。
 彼女はスマホを操作すると、俺の顔先に、画面の動画を突き付けた。
 動画は、一歳くらいの赤ちゃんが、母親と思しき女性に呼びかけられて、嬉しそうに笑っているというだけの短いものだった。

 「あなたの子供よ」

 「げっ!!?」

 「・・・・・・嘘よ。わたしの妹が去年産んだ姪の写真よ」
 霧島由起子は、俺の表情を見逃すまいと目を見開き、
 「あなたの子供は、あなたに言われたとおり、病院でおろしたわ」
 と言った。

 「お、脅かすな!いまさら、何を馬鹿なことを言い出したのかと、びっくりしたぞ。お前には、相当な額の手切れ金を渡しているはずだ」

 「それもあなたのお母様からね」
 深谷美雪が言った。
 「あなたがあまりに不誠実だから、お母様が申し訳なく思ってお出しになったんだわ」

 「サイテーの男だね」
 山口あゆみが言い、
 今瀬梨津子も、
 「いまから、この最低男に制裁を加えるところだから、あなたも見て行くといいわ」
 そう言って、霧島由起子の肩をポンとたたいた。

 「どうするんですか?」
 霧島由起子は、無様に吊り下げられた俺の姿を不安げに眺めた。
 「これ、ほっぺた、やけどしてますよね」

 「最低男には、最低男にふさわしい扱い方があるのよ」
 夏樹沙耶が言った。

 「ユッちゃん助けてくれ!!こいつらは、俺をリンチにかけるつもりだ。理事長に連絡してくれ」
 昔の呼び名で、俺は霧島由起子に語りかけた。
 七歳年上でバツイチの彼女は、当時俺に夢中であり、俺とセックスできただけで幸福をかみしめていたはずだ。

 「助けてくれたら、母親にもう一度働けるように頼んでやってもいい」

 しばらくの間、霧島由起子は無表情で、俺の顔を眺めていた。
 やがて、しずかに近づくと、俺の顔面を張り飛ばした。
 「馬鹿にすんな!!だれが!あんたなんかに!」

 「ひゅーっ!!」
 「いいぞ!!」
  女たちが喝采をあびせた。

 「あなたは、お母様に頼りすぎなのよ」
 一呼吸してから、霧島由起子が言った。

 「ねー、聞いてると、さっきからお母様に頼ってばかりじゃない」
 「マザコンていうのよ!」
 「こんな奴が、理事長になれるはずがない」
 女たちが口々に言った。

 「んー、ボクちゃんは、ママに助けてもらいたかったのかな??」  山口あゆみが、クスクス笑いながら言った。
 「ママのおっぱい飲みながら、女のひとたちが僕をいじめるんだよ〜って」

 女たちが失笑した。
 もはや、俺が理事長の一人息子であることも、将来の聖泉女子学園の支配者であることも、女たちには通用しない。

 「冗談はともかく」
 女性クリニックを経営している今瀬梨津子が、真剣な顔つきになって言った。
 「この男には、女性のおそろしさを、たっぷりと教えてやりましょう」

 「この男に、自分がやったことを思い知らせる必要があるわね」
 霧島由起子が言った。彼女が、俺を「この男」などと呼んだのは驚きだった。

 霧島由起子の発言に、女たちがうなずき合う。

 「それじゃ、尋問開始」
 今瀬梨津子が宣言した。
 「じぶんの立場をわきまえて、正直に答えること」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「あなた、自分が受け持ちの女子生徒に、何をしたんだって?」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「当時、中学3年の浜中香織さんに対して、何をしたのか聞いてるのよ」

 「小学6年生の大崎萌香ちゃんと、澄田みきちゃんには、何をしたの?」
 山口あゆみが言った。

 「ほら、質問に答えなさい!」
 霧島由起子が率先して詰問する。
 「あなた、浜名香織さんに何をやったの!?」

 「答えないなら、もう一度、タバコの火の拷問だよ」

 「お、お前たちには関係のない話だ・・・・」

 「わたしは香織の母です。真実を知る権利があります!!」
 浜名紀子が言った。彼女は、仕事中抜け出して来たらしく、銀行か何かの制服を着ていた。

 「母親には知る権利があります」
 大崎裕美子も言った。彼女は保険の外交員の制服姿だった。

 「まず、縄をほどいてくれ」

 「そんなこと言える身分だと思ってるの!!」
 夏樹沙耶が、俺の顔面に、グーでパンチをあびせた。
 女の細腕とはいえ、無抵抗な状態で殴られるのはたまらない。

 「・・・ゆ、許してくれ」

 「ゆるしてくれじゃないでしょ!女の子に何をしたか、聞いてるのよ」

 「かんべんしてくれ」
 俺は泣きべそをかいた。

 「・・・とても口で言えないような酷いことをやったのね。そうね!」
 夏樹沙耶が言った。瞳の中に炎が燃えていた。
 彼女は俺のほっぺたを力いっぱいつねり上げて、
 「それじゃあ、今日はわたしたちに、どんなお仕置きされても、文句ないわね。・・・答えろ!」
 と叫んだ。

 「・・・文句ありません」
 苦しまぎれに、俺は答えた。

 夏樹沙耶が、両手に力を込めて俺のシャツを引き裂いた。ぶちぶちと、いくつものボタンが飛ぶ。
 「ようし!言ったわね。それじゃ、お仕置きよ」

 「どうするんですか?」
 霧島由起子が不安げに尋ねた。

 「女の子と同じ目に遭わせるのよ」
 「女が“男にやられるだけ”じゃないことを教えてあげるわ」
 今瀬梨津子と夏樹沙耶が口ぐちに言った。
 二人は、事前に打ち合わせができていたに違いない。

 夏樹沙耶は、スポーツウェアの山口あゆみに、俺の両足を押さえるように依頼した。
 「蹴られないように注意してね」
 大柄な山口あゆみは、全身で俺の下半身に抱きついた。

 今瀬梨津子が、まず俺の靴を脱がした。それからズボンのベルトをするすると抜いて、床へ捨てた。

 夏樹沙耶がチャックとボタンを外す。そのまま一気にズボンを足元まで引きずり下ろした。

 明るいオレンジ色のブリーフがあらわになった。

 「やめてくれ」
 俺は、カラカラになった喉から声をしぼりだした。
 女の子と同じ目に遭わせるというのが、どういうことを意味するのか、俺がいちばんよく知っていた。

 「自業自得ね」
 母親の一人、澄田美和が言った。
 「お願いだから・・・」
 「あんたにイタズラされた女の子だって、そういう気持ちだったんだよ」
 夏樹沙耶が、声のトーンを落とした。

 「い、いたずらなんかじゃないって!女の子の方が、自分で脱いだんだぞ!」

 「まだ言うか!!」
 夏樹沙耶が、拳で俺の顔を叩いた。

 「本当だって!!浜名香織に聞いてくれよ!」

 「うちの娘は」
 と、浜名香織の母、紀子が言った。憎しみに燃える目をしていた。
 「この男に手を出された後、登校できなくなり、学校を変わったのです」

 「嘘だ!」
 俺は叫んだ。
 彼女は進路のことで悩んでいて、クラス担任の澤井みつほが頼りないせいで、俺を慕っていたのだ。
 俺が無理やり手篭めにしたのではない。

 「嘘じゃないでしょう」
 夏樹沙耶が言った。

 「・・・こういう男なのよ」
 深谷美雪が申し訳なさそうに言った。

 「なにがこういう男だ!美雪、おまえ、こんなことに手を貸して、分ってるんだろうな!!」

 「あんた、なにそのパンツ!!」
 “巨乳ちゃん”の西原エリカが、俺の尻を引っぱたいた。
 「オレンジのブリーフなんて、超ウケる〜!」

 女たちが失笑した。
 かつて同僚であった深谷美雪と、澤井みつほの二人の女が、それぞれ顔をそむけた。
 二人とも、俺が派手系のブリーフを好んで着用していることは、よく知っていた。

 「男のくせに赤いパンツなんて、イヤらしいわね」
 俺の下半身に抱きついている山口あゆみが言った。
 「あんた、そういうのが趣味なの?」

 「ははは、面白いから、写メしてやろう」
 西原エリカがケータイで撮ると、何人かの女が真似をした。

 「よ、よせ」

 「えい!パンツ一丁にしてやれ」
 山口あゆみが、俺の上半身をめくり上げ、下着のシャツを破き、胸からへその辺りまでを露出させた。
 これ以上脱がせないところまでシャツを引っ張ると、裁縫用のはさみを持ち出して、切り捨てた。

 「うわ、なに、このひと。わりと筋肉あるぅ」
 自らもスポーツで鍛えている山口あゆみが言った。

 「ナルシストだから、鍛えてるのよ」
 深谷美雪が言い捨てた。

 「どうでもいいだろ!」

 「なにその口のきき方」
 山口あゆみが言った。

 「自分の立場を思い知らせた方がいいわ」
 霧島由起子が言って、俺の顔面を殴りつけた。

 「くそっ!」

 「反抗的な目」
 山口あゆみが言うと、霧島由起子がまた殴りつけた。

 「由起子・・・おまえ、そこまで恨んでいたのか」

 「おんなのうらみは、おそろしいのよ」
 そう言って、フフッと霧島由起子は小さく笑った。


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サディスティックな♀たちから
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