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ざんげの部屋

1章

 やがて見覚えのあるグラウンドに到着した。俺が三ヶ月前まで勤務していた『聖泉女子学園』の庭である。

 二台の車は、実に手際よく、体育館と温水プールの間にある駐車スペースにたどり着いた。
 「降りなさい」
 と、夏樹沙耶が命令した。

 俺は、両手を後ろにまわした状態で、手錠をかけられている。
 その上で、上半身にロープを巻きつけられ、まさに“罪人”の格好である。
 「お、俺をどうする気だ?」
 「来れば分かるって言ってるでしょ」
 「ちゃっちゃと歩きなさいよ」
 女たちは、俺を中心にして歩き、施設の裏口から鍵を開けて中に入った。

 そこは独特の臭気ただよう、聖泉女子学園の温水プールの更衣室だった。三十人の生徒が一斉に着替えるだけの広さがある。
 夏樹沙耶が、俺の尻を蹴り飛ばした。
 俺は、まだビールの効き目が残っていて、無残なヒキガエルみたいに倒れた。

 倒れた先に、ひとりの女が立っていた。
 かつて同僚だった、澤井みつほである。小柄で、いつも周りに遠慮してばかりいる彼女は、 今も困惑した表情を隠せないでいるようだった。

 「こっちは予定通り、上手くいったわ」
 俺を拉致した女の一人が言った。
 「あなたの方も大丈夫よね」

 「ええ・・・ですから、ちゃんと鍵を開けておきました。それに、来週の月曜日から、温水プールの臨時清掃が入ることにしてあり、使用禁止ですから、三日間はだれも来ないと思います」

 「でかしたわ」
 また別の女が言った。

 「澤井先生も加わっていたの」
 深谷美雪が言った。
 二人は聖泉女子学園の同僚教師で、深谷美雪が英語、澤井みつほが国語を教えていた。

 「じゃあさっそく始めますか」
 夏樹沙耶が言って、俺の身体に巻き着いたロープを引っ張った。
 「ほら、立って」

 俺は二本の足がもつれて転びそうになった。それを、小柄な澤井みつほが全身で受け止めた。
 「お前まで、グルだったのか」
 俺は凶暴な目で、彼女を睨んだ。それだけで、気の弱い彼女は何もできなくなるはずだった。
 ところが、予想外にも、彼女は言い返してきたのである。
 「そうよ。わたしもグルだったのよ。わたしだって女ですもの、お母さんたちに協力して当然でしょ」

 「ヒュー!」
 と、夏樹沙耶が音を鳴らした。
 澤井みつほは、高揚した様子で、しっかりと俺の顔を見つめ返した。

 「澤井先生、深谷先生だけじゃないわよ」
 四十代前半の女が言った。
 「あとで、藤枝先生と福田先生にも来てもらう手はずになっていますから」
 その二人は、聖泉女子学園のベテラン教師で、在職中俺が苦手としていた女だった。

 「それだけじゃないわ」
 また別の女が言った。
 「この聖泉女子にいる、すべての女が、あなたの敵よ!」

 「そうよ!あんたみたいな男は、全女性の敵よ!」
 澤井みつほを加え、9人の女が、ぐるりと俺を取り巻き、口々に詰め寄った。

 「わ、分かった」
 俺は、その場にへたり込んだ。
 「反省します。慰謝料も払う。だから、許して下さい」

 その瞬間、夏樹沙耶がサンダルで俺の胸を蹴り倒した。
 「ふざけんな!!」
 と叫んで、彼女は俺の胴に馬乗りとなった。彼女は俺のえり首をつかみ、猛烈にビンタをあびせた。

 「やめろ!」
 俺は起き上がろうとしたが、ファミレスで飲んだビールのせいで腰に力が入らない。ばたばたさせていた両足も、 他の女たちに押さえられてしまった。

 「あんた強姦で訴えることもできるんだよ!」
 夏樹沙耶が言った。怒りに燃える目をしていた。
 「かりに合意があっても、十一歳の女の子に手を出したら、レイプとおんなじだよ!! あんただって教師の端くれなんだから、それぐらい分かるだろう!」
 彼女はえり首をつかんで俺の頭を持ち上げ、タイルの床に叩きつけた。

 「お、俺は、レイプなんてしていない!」
 「それと同じぐらい許せないことしただろ!!!」
 間髪入れず、夏樹沙耶が言った。

 「だ、だから、俺はこの学校を、自分から辞めたじゃないか」
 床にねじ伏せられた状態で、俺は必死に抗弁した。

 「それは、あなたが自分の保身のためにでしょ」
 うりざね顔の女が言った。
 「申し遅れましたが、わたくし澄田美和といいます。・・昨年あなたが担任していた澄田みきの母親です!」
 「わたしは大崎裕美子と申します。大崎萌華の母親です!」
 「わたしは、浜名紀子。浜名香織の母です!!」

 薄々とそんな気はしていたのだが、やはり俺がかつて担当していた女子生徒の母親たちであった。
 澄田みきと大崎萌華は、昨年の小学校六年生のクラス。
 浜名香織は中学3年で、同僚の澤井みつほが担当しており、いちど進路相談のことで協力したことから、関係ができたのだった。

 「今日こうやってあんたを連れてきたのは」
 夏樹沙耶が言った。
 「わたしたち女の手で、あんたに制裁を加えるためよ」

 夏樹沙耶は二十代後半のバツイチで、小学生の娘が二人いたはずである。
 俺は彼女の子供には手出ししていないが、きっぷの良い“姉御肌”で、頭の回転も速いため、今回の首謀者に祭り上げられたというところだろう。

 ファミレスからついて来た女子大生の西原エリカも、夏樹沙耶を「お姉さん」などと慕って呼んでいた。

 他に見たことのない女が二人。
 四十後半の今瀬梨津子は、婦人科の医院を経営しており、今年から聖泉女子の健康診断を担当している。
 三十代の山口あゆみは、母親と娘が混合で行うバレーボールの中心的人物。
 いずれも、人望のある夏樹沙耶が、女手が必要ということで集めたのに違いなかった。

 俺は、女たちを見回し、ごくりと唾を飲んだ。

 「ふふふ、これくらいの人数でびびってたらダメよ」
 夏樹沙耶が言った。俺が動揺する様を見て、愉しむように目を細めた。
 「今日は、あんたの“被害者の会”が大集合することになるかもね」
 そう言って、彼女は悪魔っぽく笑った。


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サディスティックな♀たちから
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