女二十一人の集団リンチ


七章

 女たちの取り調べは、まだはじまったばかりである―――。

 * * * *


 女性警察官の西澤奈緒美が、唯一本当の被害者である、並木瑞恵、並木美穂の母娘に 語りかけた。
 「ええと・・・・・・今日下着を盗まれたのは、そちらのお二人でしたね。ええと、お名前が」

 「並木です。並木瑞恵。いつもはうちで洗濯するので来たことなかったんですが。あの、 昼間なので、まさかそんなこともないだろうと思い・・・・・・離れて買い物に行ったのが悪かった んですわ」
 並木瑞恵が、まるで自分にも落ち度があったかのような言い方をした。

 俺は、そんなささいなことでも少しほっとして、温厚そうな彼女の顔を見つめたが、彼女の 発言は、別の女によって、ただちに修正された。

 「貴女が反省する必要はないんですよ」
 女巡査長が言った。
 「悪いのは、あくまでも男。下着を盗んだ、痴漢に決まっています」

 「こうした事件のときに、女性が自分にもスキがあったように感じてしまうのは、悪い傾向です。 これは、改めてもらわないと・・・・・・」
 榎本美沙子が厳しい口調で言った。

 主婦の並木瑞恵は、それだけでうろたえた調子になり、
 「いえ、あの・・・・・・すみません。そういう意味じゃ」
 と、口ごもった。

 「貴女が謝ることはありません。さっきから言っているように、悪いのはあくまでも、男。 被害者はいつだって女性です」
 そう言って、榎本美沙子が俺の顔に手をのばし、ぎゅううっと、ほっぺたを抓った。

 いて、いてててててて。な、なにするんだ!いきなり・・・・・・。

 俺が彼女の手をふりほどこうとすると、榎本美沙子は一瞬の早業で俺の手首をひねり、 腕を背中にねじり上げて身動きできないようにし、

 「こういうやり方で男を取り調べるのも、長い間男社会に抑圧されてきた女性の自信を 回復させ、意識改革をするのに必要な手段なのです」
 そう言って、俺の身体を突き放して、床の上に転倒させた。

 「ま、ようするに痴漢をあつかうのに、女性が遠慮するこたぁ、ないってことよ。そのため にウィメンズクラブには“切りきざむ会”が置かれているんだしね」
 おら、立て!と、女巡査長の西澤奈緒美が俺のえり首をつかんで、立ち上がらせた。

 「女の人たちがおとなしいからって、ナメた態度をとると、痛い目に遭うよ。よーく、覚え ときな!」
 そう言って、女巡査長は俺の腹に、軽くパンチを当てるそぶりをした。
 「よし、座れ!」

 「座れって言ってるのよ!なに、その目は!?」
 榎本美沙子が言った。

 俺は、彼女たちの独善的な態度に怒り心頭し、素直に言うことなど聞く気になれなかっ た。
 そこで、あえて反抗して、直立不動の姿勢を維持した。

 だが、それは大きな間違いだった。
 “女の敵を切りきざむ会”の取調室に連れてこられた男が、女たちの命令に反逆しては 絶対にいけなかったのだ。

 「そうかい、あたしたちの言うことが聞けないんだな。そうか、分かったよ」
 女巡査長の西澤奈緒美が、元教室の広い取調室を横切って、すみっこにあるロッカー を開いた。
 中にはバケツやほうきなどの掃除器具にまじって、竹刀や特殊警棒などの武器が、何本も しまい込まれていた。

 「ちょっと、取りに来てくれる」
 水谷綾子、秦野麻里、杉浦咲子などが、ロッカーの中からそれらの“得物”を分け取りに した。

 お、おい!そんな物騒なモノ持ち出して・・・・・・俺をどうする気だ!?

 「決まってるでしょう。あんたが反抗的な態度を取るなら、こっちにも考えがあるわ」
 榎本美沙子が、アルミでできた伸縮自在の特殊警棒を受け取って、俺の喉元に突きつけた。

 「少し、いたぶられないと分からないだろ?」
 女巡査長が言った。

 ぐいっ、と榎本美沙子が持つ特殊警棒の先が、俺の皮膚をえぐった。

 わ、分かった・・・・・・。
 俺はカラカラにかすれた声で言った。
 言われたとおりにする・・・・・・。

 ペタリ、と俺はその場にへたり込んだ。
 その俺の腰抜けぶりを、女たちの多くが冷笑した。

 「フフ、オンナに立ち向かう度胸もないくせに・・・・・・」
 主婦の飯尾絵美子がそう言って、笑った。

 「話を戻しますよ」
 秋津静穂が言って、ふたたび女たちの尋問が開始された。
 むろん、彼女たちは竹刀や警棒を持ったまま、俺の態度が少しでも気に入らなければ、 たちまち制裁を加えるといった顔である。

 「ええと、それじゃ・・・・・・わざわざ出てきてくれた三人のお話を聞かせてもらえるかしら。 まずは、萩原貴子さん、二十一歳OLの方。あら、今日はお仕事はお休みなのね?それに、 寺内朋子さん。寺内さんは、お仕事の途中わざわざ出てきてくれたのね。濱中香織さん は・・・・・・ええと、短大生ね。津田泉女子短期大学の一年生」

 「はい」
 「そうです」
 「ええ」

 「三人とも、この半年間に二回ずつ。あ、濱中香織さんだけは四回もなのね。下着泥棒 の被害を受けているわね」
 秋津静穂が、女巡査長の青いファイルを見て言った。
 「今までの証言から言って、どうしてもこの男が黒に近くなるわねえ・・・・・・。ええと、男の アパートの捜査はどうなっていますか?」

 「うちの有紀子が行ってます。あとついでに親にも連絡させましたので、今ごろ男の 母親が立ち会いで、アパートの捜査をしているはずです」
 榎本美沙子が言い、それを聞いたとたん、俺はさらに絶望のふちに叩き落とされた。

 女の下着を盗んだのは、実を言えば、これがまったくはじめてではなく、アパートには 今まで盗んだ女の衣類が、多少なりとも隠してあった。
 それらを発見されるのも怖いが、すでに母親に連絡がなされているというのは、最悪の事態である。

 「許せない」
 と、オールドミスの寺内朋子が、憤然とした調子で言った。

 少なくとも、家宅捜査の結果を見るまでは、俺が彼女の下着を盗んでいるかどうか、 だれにも判断がつかないはずなのだが、そんな冷静な思考などは、興奮した彼女には ないらしかった。

 「わたしも、あそこのスーパーでは何度か怖い目に遭ったことがあります。夜、閉店 まぎわに買い物をして、ちょうどコインランドリーの角を曲がったところで、若い男に声を かけられたのです。むろん、相手にはなりませんでしたが。下着を盗まれたことも一度や 二度ではないし、まったくもう!信じらんないわ」
 言いながら、寺内朋子はますます興奮してきた。

 馬鹿をいえ!なんでお前みたいなブスでデブを相手に痴漢なんてするもんか。
 俺はそう思ったが、そんなことを口にしたら、どんな目に遭うか分からないので、言わ ない。

 「本当に申し訳ないわ。早くなんとかしなくちゃいけないって、昨日も会議を開いたばかり だったのよ」
 スーパーマーケットの女課長、杉浦咲子が言った。彼女は丁寧に何度も頭を下げ、  「ごめんなさいね。わたくし共の対応がしっかりしていなかったばかりに、みなさんには 怖い思いをさせて」

 「悪いのは、この男よ」
 寺内朋子が俺に指を突き刺して言った。
 「女性が謝る必要はないわ。それによかったじゃない。こうして捕まえることができた んだし」

 「そうよ。お店が謝ることはないわ。あくまでも、悪いのは痴漢をしたこの男よ」
 買い物客代表として、飯尾絵美子が言った。
 「そう言っていただくと本当に助かるんですけど・・・・・・。とにかく、わたくし共としましては、 以後二度とこういった事件が起きないように、この男に対しては厳罰主義でのぞむことを 希望いたします」
 杉浦咲子が言った。

 「それがいいわ。こういう男は、すべての男の見せしめとして、徹底的に厳しく追求しな ければダメよ」
 寺内朋子が言うと、同じく被害届を出していたOLの萩原貴子、女子短大生の濱中香織 の二人も、黙って強くうなずいた。

 小学五年生の水谷早紀が、突然決意したように言う。
 「ピアノの帰りに、公園でわたしにイタズラしたのは、この人です」

 「水谷さん・・・・・・。このお兄さんにどんなコトされたのかな?もしよかったら、おばさんたちに 話してもらえないかな」
 秋津静穂が、少女の肩に手を乗せて言った。

 水谷早紀は、先ほどからの女たちの証言を聞いていて、だんだん本当に俺の顔が犯人に 見えてきたらしく、少しずつ話しはじめた。

 「・・・・・・いきなり公園の陰から現れて、わたしの腕をつかんだんです。それでイヤダッ、って 言ったら、今度はズボンのチャックを開けて、わたしの目に、その・・・・・・」

 「オチンチンを見せられたわけね」

 「はい。それで、わたし逃げたんですけど、怖くって、自転車がこげなくなって、そしたら男に 追いつかれて自転車を倒されて・・・・・・」
 小学生の娘がそれ以上言えなくなったので、母親の水谷綾子が後をついでしゃべりだした。

 「早紀は、そのままテニスコートのわきに連れて行かれ、そこでスカートとパンティを下ろされ たんです。早紀が泣きながら、たまたま手にとどいた石で、男の股間を打ったところ、ようやく 男はあきらめて退散したというわけです」

 水谷早紀は、そこまで話が進むと泣いてしまった。
 女子高生などとは違って、これは正真正銘、本物の涙である。
 部屋全体が少女の不幸を痛む雰囲気となり、しばらくの間シーンとなった。少女の嗚咽 だけが、その中でひびいていた。

 「あそこのテニスコートには、たしかに痴漢が出るって聞いてました。でも、そこまでひどい とは・・・・・・」
 テニスウェアーにジャージを羽織った秦野麻里が、絶句した。

 「もう、安心していいのよ。あんたが勇気を出して証言したおかげで、犯人も捕まったし、 これからママたちが徹底的にこの男を追求して、懲らしめてやるからね」
 水谷綾子が言った。

 娘の早紀がうなずき、並木瑞恵と美穂の母娘、それに飯尾絵美子らの主婦たちも、 それぞれ決意のこもった目で強くうなずいたのだった。


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