[40]

 聖泉女子学園中等部2年の北原千尋(14歳)です。
 今日は、私が体験した、信じられないような出来事について、私が覚えている限り、正確にお話してみたいと思います。
 その日は、前期試験の最終日で、お昼前には全てのテストが終了しました。
 いちばん苦手な数学の試験が終わったので、私は開放感を味わっていました。
 私が所属している軽音部も、この日は部室の一斉清掃日だということで、お休み。
 私は学校の図書館で借りていた本を返してから、ひとりで帰宅しました。
 正門のところで、担任の深谷美雪先生と、副担任の澤井智子先生が見送ってくれました。
 2人は、私の制服のネクタイが、ほんの少し曲がっているのを見逃さず、その場で直してくれました。
 「服装のみだれは、こころのみだれにつながりますよ」
 と、深谷先生は言いました。
 「最近また、通学路にも、変質者の男が目撃されているから」
 と、澤井先生が声をひそめました。
 「"聖泉女子"の女の子は、ウブで可愛いから、狙われるのよ。油断せずに、気を付けなければだめよ」
 そう言って、深谷先生が私の頭をポンポンと叩きました。
 「は〜い」
 私は内心(大丈夫なのにな・・)と思いながら、返事だけは明るく返しました。
 しばらく歩いていると、クラスメイトの安川杏奈が、自転車で追いついて来ました。
 杏奈は、聖泉女子ではめずらしい"不良少女"です。
 髪の毛は茶髪を通り越して赤ですし、校則で自転車通学が禁止されているのに、まるで意に介さない"つわもの"です。
 噂では、大学生のカレがいて、小学生で処女を失ったという武勇伝があります。
 私とは正反対のキャラですが、不思議と気が合い、仲良くしていたのでした。
 「あーあ、なんか、面白いことないかな」
 自転車を押して歩きながら、杏奈が言いました。
 「カラオケでも行く?」
 私が言うと、杏奈は、
 「カラオケねえ・・もう飽きたわ」
 と、言いました。
 「じゃ、何がいいのよ」
 私が少し機嫌をそこねたように言うと、杏奈は、あわてて、
 「あ、ごめん。でも、最近、なんだか刺激が足りなくて」
 と、言いました。
 「例の大学生のカレはどうしたの?」
 「んん・・。別れちゃった。大学生のくせに、ゲームとアニメの話題ばっかりで、馬鹿みたい」
 「そうなんだ・・」
 「今は、25歳のフリーターと付き合ってるんだけど、これも馬鹿でねえ」
 杏奈が、いかに年上の男が馬鹿で、取るに足りないかを語ってくれ、私はお腹をかかえて笑ったのでした。


 そうやって歩いているうちに、S競技場にさしかかりました。
 ここは、S女子体育大学の付属グラウンドですが、聖泉女子の部活でも使わせてもらうことがあります。
 はっきり言ってお嬢様学校である聖泉女子は、スポーツや格闘技分野では他校の遅れをとっていました。
 そこで、同じ区域にあるS女子体育大学と協定をむすんで、底上げを図ろうとしていたのでした。
 S競技場は、陸上のトラックがメインで、脇にはテニスコートや、弓道部の射撃場なども設置されていました。
 グラウンド全体を取り囲むように樹木が生い茂っており、所どころブロック塀が設置され、全体は背の高い金網で守られていました。
 (女子の練習を盗撮したりする男が後を絶たないからだそうです・・ほんとに、男って嫌ですね)
 入口は一か所しかなく、警備会社から派遣されたガードウーマンが定期的に巡回を行っていました。


 グラウンドの入口に、聖泉女子のチアリーディング部が集結していました。
 といっても、弱小クラブなので、中学と高校をあわせても7人しかいません。
 坂下瑞希(さかした みずき中1)、副嶋奏楽(そえじま そら中2)、湊美姫(みなと みき中2)、 鷹見優季(たかみ ゆうき中2)、吉野馨(よしの かおり高1)、井上桃香(いのうえ ももか高3)。
 全員、チアリーダーの衣装を身に着け、気合が入っています。
 都大会予選に向けて、S女子大の先輩2名からみっちり指導を受ける・・ ということで、前期試験が終わったからと言って、休む暇はないみたいでした。
 ・・ただ、私といちばん仲のよい韮崎みくちゃん(中2)がいません。
 実は、もう一人、仲良しチームのメンバーである坂本真保ちゃん(中2)も休んでいたので、 私はある胸騒ぎを覚えていました。
 思いは一緒だったらしく、部長の井上桃香先輩が、声をかけて来ました。
 「きたはらさーん。今日は、みくちゃんはお休み?なにか聞いてない?」
 「・・いえ、何も。そういえば、坂本真保ちゃんもお休みしています」
 「ええー、あんなマジメな子が、試験の日に休むかねえ??」
 真保と同じクラスの鷹見優季という子が言いました。
 それは、まさに私自身が感じていたことでもあったので、胸がドキドキしてきました。
 何かあったに違いない・・私は直感しました。
 「・・わたし、電話してみます」
 「それがいいわ」
 私が真保ちゃんのケータイに電話をかけると・・留守電に切りかわる直前に、真保ちゃんが出ました。
 意外なことに、真保ちゃんと、みくちゃんが一緒にいました。
 「やっぱ、ふたりでサボってたんじゃないの?」
 安川杏奈がおちゃらけて言いますが、絶対にそんなはずがありません。
 (・・うん、大丈夫。え、なにかあったって?何もないわよ)
 電話の向こうで、みくちゃんの声は、明らかに沈んでいました。
 絶対ウソ。何もないわけない・・。
 「どうしたの!?なにがあったの??教えて!!」
 私は、自分のスマホに向って叫んでいました。
 やや間があって、帰って来た答えは、信じがたいものでした。
 みくちゃんの一番上のお姉さん、韮崎綾乃さんが、電話を代わり、状況を説明しました。
 彼女は、「みくと、真保が、男の人にやられた」と言いました。
 たしかに、"やられた"と聞こえました。
 それはつまり・・。
 私は頭の中が真っ白になりました。
 キャア嗚呼ああ!!!
 ・・叫んでいる声が、自分の悲鳴であることに気づくのに、時間を要しました。
 ほんとうに、ひどい。
 だれがいったい。
 私はパニックになりました。
 「ちょっと貸して」
 こういうとき、場数をふんでいる杏奈がいちばん頼りになります。
 彼女はわたしからスマホを奪い取ると、電話の向こうにいる大人の女性と話しだしました。
 「・・犯人の男は、捕まったって。女権委員会ってところで、制裁を加えるんだって」
 杏奈が冷静に状況を伝えてくれました。
 「ひどい!」
 「ゆるせない」
 「ひどい」
 「みく、かわいそう・・」
 チアリーディング部のメンバーが口々に言います。
 「犯人は、真保のお兄ちゃんだって」
 「げーーーマジか!」
 「ふたりとも、やられちゃった!!」
 「・・ひどいわ・・」
 いつのまにか、まわりの女子たちも泣き叫んでいました。
 杏奈だけが、一人冷静でした。
 彼女は静かにまわりを見渡して、
 「今から来れるかって、電話の向こうの大人の人が言ってるけど、行けないよね?」
 と、言いました。
 「ええーー遠いよーー。むりだよ・・」
 「待って!むこうから、来るって」
 「どういうこと??」
 「よく分からないけど、こっちへ来てくれるみたい」
 「みくと、真保の無事な姿見れるなら、なんでもいいよ!」
 「みくに会いたいよう!!」
 女子たちは、抱き合って泣き続けました。



 そこへ、S女子体育大学の先輩2名が到着しました。
 染谷千穂先輩(大学2年)と、柴垣由布子先輩(大学3年)です。
 真昼のグラウンドで大勢の女子が泣き叫んでいるという、異様な光景だったと思います。
 「みんな、泣かないで」
 「いちばん辛いのは、みくちゃんなんだから、みんながしっかりしないと。ここで泣いていても、 何にもならないわよ」
 さすがに頼もしい先輩が加わったことで、私たちは幾分か落ち着きを取り戻しました。
 冷静さがもどると、私は、"真保ちゃんの兄"に対する怒りがこみ上げて来ました。
 「ゆるせない・・」
 私がつぶやくと、まわりの女子たちも、真っ赤な目でうなずきました。
 「私たちの手で、かたき討ちしてやりたいわ」
 井上桃香先輩が、力強く宣言しました。


 「どうしたのー?」
 遠くから小走りに近づいて来たのは、S女子体育大学講師の岩槻紗里奈さん(32歳)です。
 彼女は、オリンピックの銅メダリストで、女子陸上界では名の知られた存在です。
 身長は160センチと小柄ですが、小麦色に日焼けした肌、短く刈り込んだ髪が、女というよりも、 "イケメン"と呼ぶ方がふさわしい雰囲気の持主でした。
 岩槻紗里奈さんがホイッスルを鳴らすと、S女子体育大学の選手が、練習を中断して、ぱらぱらと駆けつけてくれました。
 これで、真保ちゃん、みくちゃんを迎え入れる体制はととのいました。
 そして、この後、私たちは衝撃体験をすることになります。


    
被虐小説の部屋に戻る



動画 アダルト動画 ライブチャット