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 衝動的に僕は駆け出していました。
 これ以上女たちのするがままに身をまかせていたら、殺されてしまうと思いました。
 僕にオナニーさせてイジメるために、手錠を外したことが幸いしました。
 玄関の電子ロックが外れていたのは、偶然です。
 僕は、後先を考えずに、夢中で走りました。
 おそろしいフェミニズムの女たちに、心も体もズタボロにされていましたが、まだ走れる力が残っていることに驚きました。
 たぶん、本能で逃げたと思います。
 一機だけあるエレベーターが、一つ上の階に停まっていたことも幸いしました。
 僕は下ボタンを連打して、やって来たエレベーターの箱に飛び込みました。
 平日昼間の鉄筋コンクリートマンションは、全体にひんやりと静まり返っていました。
 僕は、エレベーターの中で考えて、あえて地下1階で降りることにしました。
 そこは、車4台分の駐車スペースと、駐輪場、ゴミ置き場などでした。
 たぶん小野りかのものと思われるBMWが置いてありました。
 この際、クルマを奪ってでも逃げられないかと考えましたが、当然、鍵がかかっています。
 女たちが話していた通り、共用のトイレがありました。
 僕は、そこで鉄さびた味のする水をがぶがぶ飲みました。喉の奥まで手を突っ込んで、無理やり胃の内容物を吐き出しました。
 オレンジ色の苦い胃液が出ました。飲まされた薬は、だいぶとけていましたが、ここで出さないよりはマシです。
 僕は、おそろしい女たち(もしかくれんぼにたとえるなら、文字通りの女オニたち)が、 ぞろぞろ出て来るのではないかと、ドキドキしながらエレベーターを見ていました。
 エレベーターは、僕が下りた後、1階まで戻ったきり動きませんでした。
 やや安心してまわりを見渡すと、資源ごみがおいてあるスペースに、何やらカラフルな色彩の入ったビニール袋を発見しました。
 もしや、と思い近づくと、古着が捨てられていました。
 僕は、飛び上がって喜びました。
 これを着れば外に出られる、と。
 ビニールを破り、中身をぶちまけると、女ものの衣類が散乱しました。
 下着などはなく、シャツやズボンが入っていました。
 僕が着れそうな服は・・と見ると、ジャージの上が見つかりました。
 胸のところに、"3年1組×××"と苗字が書いてあります。赤色とサイズからして、中3女子のジャージです。
 躊躇している暇はないので、僕はそれを着ることにしました。(僕はどっちかというと小柄で痩せている方)
 下半身にも羽織るものが欲しい・・しかし、ジャージのズボンはなく、女もののジーンズは細すぎて足が通りません。
 ジャージの上を引っ張ると、かろうじておへその下まで隠すことができます。
 もうこれで逃げるしかない。
 もたもたしているとジ・エンドです。万が一、連れ戻されたら、ひどい制裁が待っているに決まっています。
 表通りまで出て、タクシーを拾えれば、僕の勝ちです。
 コンビニに転がりこんで、助けを求めてもいい。
 無事生還したら、女どものひどいやり口を、ネットとかで公表して糾弾してやろうと思いました。



 そのとき、キャッ!!という声が、地下駐車場に響きました。
 50歳くらいのおばさんが、裸ジャージ姿の僕と鉢合わせたのでした。
 彼女は両手にビニール袋を持ったまま、固まっていました。
 僕は一瞬判断に迷いましたが、彼女が優しそうに見えたので、彼女の前に身を投げ出し、「たすけて下さい!!」と言いました。
 驚愕する彼女の脚に、すがりついていました。
 「このアパートで監禁されて虐待を受けていたんです」と言いました。(うそじゃないです)
 彼女は、腫れ上がっている僕の顔を見て、まんざら嘘でもないと感じたのか、叫ぶのをやめ、冷静に観察してきました。
 「たすけてください、お願いです。上の部屋に閉じ込められて、ようやくここまで逃げて来たんです」
 僕は涙を流し、訴えました。
 「どうしたの?すごい声が聞こえたけど」
 仲間が現れました。
 今度は若い女です。ラフなジーンズの私服で、薄ピンク色のエプロン(?)みたいなやつを着けています。
 たぶん、保育士かなにかです。最初にここのビルに連れて来られたとき、居住者専用の保育園が一階部分にあったのを思い出しました。
 「この人が、ゴミをあさっているから、びっくりしたんだけど、見て、すごいアザだらけなのよ」
 最初の女が説明しました。
 「ええーーただの変質者じゃないの・・?」
 もっともな疑問です。しかし、ここで変質者認定されたらおしまいです。
 僕は、ジャージのすそを両手でつかみ、めくり上がらないようにしながら、
 「助けてください!!」
 彼女たちの足元にへたり込んで、必死にお願いをしました。
 「あなた、お名前は?」
 「いつからここにいるの?」
 「どこから来たの?」
 「だれにやられたって言うの?」
 「本当は、ここで下着でもあさってたんじゃないの?」
 質問攻めになります。
 2人はひそひそ相談したりしていましたが、やがて若い方の女が、
 「とりあえず、管理室に連絡するけど、いいわね?」
 と言いました。
 管理室は1階にあるので、階段を上がると、すぐそこです。
 いいわね?と聞いておきながら、彼女は、僕の返事を待たずに通報してしまいました。
 まだ助けてもらえるかもしれないので、ここで逆らうのも変です。
 管理室の担当者は、やはり40後半か50歳くらいのメガネをかけた女でした。イエローとグリーンの目立つ制服を着ています。
 それにしても、このビルには女しかいないのか。
 (あとで分かったことだが、ここのビルは、小野りかが約半分の部屋を所有しており、 夫の暴力から逃げて来た女性や、一人で子育てする女性を住まわせ、仕事を世話したりしながら、 女性の自立を助けるNPOを営んでいたのでした。だから女性が多いのは当然だった・・)
 「おすわりなさい」
 と言って、制服姿の女(ネームプレートによれば、大森あずさという名前です)は、僕を管理室の奥の椅子に腰かけさせました。
 僕は下半身が見えないように、ジャージのすそを両手でしっかりとつかみます。
 大森あずさは、女性2名を入り口側に配置すると、備え付けの受話器をとりあげ、
 「こちら防災管理室です。たった今、捕らえました。はい、住民の方の協力です」
 と言いました。
 「すぐお迎えがくるからね。暴れたりしたらイヤよ。おとなしくしていてちょうだい」
 そう言って、彼女はガラスのドアを閉ざしました。


    
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