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 正直に言います。
 私は、彼が女たちから性的なお仕置きを受けたことで勃起した(つまり、彼はドエムである)ということを、みんなの前で証明したいと思いました。
 そのために、彼にクスリを投与した上で、ふたたび勃起させなければ、と思っていました。
 女医の新妻千枝子さんの説明によれば、このクスリは性的な興奮作用をもたらすものでないため、無理に飲ませても、それだけでは 勃起には至らないそうです。
 逆に言えば、おクスリを飲ませてお仕置きを続行し、万が一彼が勃起したら……それは彼が性的に興奮したことのあかし……つまり、M男であることの証明になります。
 私は、彼が勃起した本当の理由を知っていました。
 母も、そのことは分かっていたはずです。
 けれど、私は、女たちから彼が"ドエム認定"されてしまう方が助かると思いました。
 母裕美子が、私のせいで勃起したなどと口走るからいけないのです。
 どっちみち、妹を強姦した罪で女権委員会の制裁を受ける彼には、もはや助かる道はないのだから、私がフォローしてもしょうがないと思っていました。


 綿貫真梨絵さん(おしゃれメガネが素敵な秘書さんです)と、母裕美子が、競うように勃起薬を剥いて行きます。
 「ちょっとちょっと、何錠飲ませるつもり?」
 女社長の小野りかさんが、やや慌てて言いました。
 「バイアグラ何錠あるの?」
 越石さくらさんが母の手元をのぞき込みます。
 「えっと、今13錠あるけど、多い?」
 「正確には、バイアグラじゃなくて、同じ効用のあるジェネリックだけど」
 新妻千枝子さんが解説します。
 「これ、全部飲んだら、オチンチンが爆発しちゃうわよ」
 女医先生が言うと、女たちが爆笑しました。
 「適量は、どれくらいですか?」
 「サヴィトラ100は、効き目が強すぎるから、通常は四分の一カットで十分よ!」
 小野りか社長が笑いながら忠告します。
 「若いから、さぞかし良く効くでしょうしね」


 「わたしは、やっぱり、納得がいかない」
 女子大生の上原絵里奈さんが、ぽつりと口にしました。
 思いつめた表情をしています。そのせいで、女性たちの盛り上がりもいったん静まりました。
 「どうしたの?」
 女医先生が優しく問いかけると、彼女は大きな黒い瞳に涙を浮かべて、
 「男って、わざわざお薬を飲んでまで勃起したい生き物なんですか!?」と言いました。
 ああ、なるほど・・。若い彼女の気持ちも分かる気がしました。
 「オトコなんてみんなそうよ」
 留学生のアイリスユンがつぶやきました。
 「わたしの国だと、二ホンからオジサマたちが大勢やってきて、女の子を買って、ついでにバイアグラも買って帰るのが当たり前のようだった時期もあるし」
 「ますます許せない……」
 「今は、"アジア女連"がきつく取り締まりをしているから、以前のようなことはありません」
 やや慌てたように、小宮さなえさんが口をはさみました。
 「でも、ま、たしかに、このクスリは、男どもが行ってきた悪行の歴史と深く関係していることに違いないわ」
 榎本美沙子さんが、そう言って、ひろ君の性器をつねりました。
 「ラディカル・フェミニズムが支配する社会では、女性同士のレズカップルが当たり前になるし、 生殖は人工的に行われるから、男性は精子提供者をのぞいて基本的に不必要となる。そこでは、男の勃起は、 "女性性"を侵害するだけの有害ものとして排除されるんですよね。新妻先生の御本に書いてあるの読んだわ」
 「あなた、よく勉強してるのね」
 "アジア女連"の小宮さなえさんが、静かにうなずきました。
 「いちおう、わたし、女性学のゼミですから。……この人にお仕置きするっていうなら、 バイアグラ飲ませるよりも、二度と勃起しなくなるおクスリを飲ませた方がいいんじゃないですか」
 ・・もっともな疑問だと思いました。
 「それか、いっそのこと、ちょん切ってしまうかね」
 小宮さなえさんが言い、彼のオチンチンをギュっと引っ張りました。
 「あなたがおっしゃるように、世界では、男の性犯罪については、去勢罰が原則になってきつつあるわね」
 「日本だけが遅れているのよ」
 榎本美沙子さんが付け足しました。
 「それには、わたしたち女が団結して、法改正を実現するしかないわね」
 ……考えてみると、大学生の上原絵里奈さんは、男の裸をここまで間近に眺めた経験はなかったのかもしれず、 ここまで平然と参加しているように見えましたが、意外とショックが大きかったのかもしれません。
 一方、母裕美子は、勃起薬を使ったお仕置きができなくなりそうな流れに、不満な様子が見え見えでした。
 「それじゃ、どうするんですか?まさか、この子の性器をこの場で切り落とすなんて、いくらなんでも、承服できませんよ」
 母の癖で、ややヒステリックな声を上げます。
 上原絵里奈さんは、黙ってしまいました。


 「どうする?こんなに剥いちゃって、おクスリが全部無駄になっちゃうわよ?」
 母裕美子が、上原絵里奈さんを無視して、他のおとなの女たちに語りかけました。
 「たしかに、もったいないかな」
 薬を使いたい派の綿貫真梨絵さんが、母に同調します。
 「わたしは、正直に言うと、勃起するのは変だと思うし、見たくないかなあ」
 一方、弁護士の榊美華さんが上原絵里奈さんの肩を持ちます。
 黙って発言しない女性たちも、それぞれ何かを考えているようでした。
 意見が割れてしまったので、朝日奈泰子さんにみんなの注目が集まります。
 彼女は、ラブ・ピースクラブの代表ですし、この場の年長者なので、うまく収めてくれるに違いありません。
 「わたしは、本来"男の勃起は悪"という立場です」
  一呼吸おいてから、朝日奈泰子さんが口を開きました。
 「ましてや、お仕置きの最中に勃起するなどと、ふざけすぎています」
 上原絵里奈さんが、わが意を得たようにうなづきました。
 「ですが、薬物投与によって、意に反する勃起を男がさせられるというのであれば、話は別です。フェミニズムが完全支配するようになった社会においては、男の下半身は、わたしたち女性がコントロールしなければなりません。勃起することを許すも、許さないも、わたしたち女性が決めるのです」
 そう言って、朝日奈泰子さんは、上原絵里奈さんの頭を優しく撫でたのでした。
 「ようは、この男がわたしたちの許しを得ずに、ボッキしたことが悪なのよ」
 榎本美沙子さんが言いました。
 「それに、バイアグラは、それ自体、画期的な男性懲戒術に用いることができます。これは、もともとわたしたち"アジア女連"があみ出した特殊なお仕置き法です」
 今度は小宮さなえさんです。
 「あ、そんなのがあるんですか」
 母の顔つきが、ぱっと明るくなりました。
 「簡単なことです」
 小宮さなえさんは、彼の小さなオチンチンの皮部分をつまんで引っ張って見せながら、
 「バイアグラを通常量の5倍から10倍、投与してしまえばいいのです。 過剰な勃起状態が継続することは、男性器に深刻なダメージを与えることになります」
 「その手があったか!」
 越石さくらさんが、笑いながら言いました。
 (彼女は、最初から知っていて、母に味方するために、わざと言ったのだと思います)
 「いわば、男たちの欲望を逆手に取った懲罰方法ということになるわね」
 榎本美沙子さんが言いました。
 「実際、タイやインドネシアではバイアグラの密買いを発見された男が、"アジア女連支部"に連行され、購入した全部を食べさせられたという例も報告されています」
 「どうなりましたか?」
 「とうぜん、勃起状態が止まらなくなり、二晩苦しんだあげく、さいごは、現地の女たちの手で、腐ったペニスの除去手術が行われました」
 「男どもが快楽のために開発した薬を使って、お仕置きじゃ〜!!」
 明るくて可愛い榊美華さんが言うと、女たちが笑いました。
 上原絵里奈さんも笑っていました。


    
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