[27] そのとき、男性アイドルグループのヒット曲が鳴り響きました。複数の女が自身のケータイを探してモゾモゾと動きました。 電話を受けたのは、女たちの最年長で、母真由子の友人である朝日奈泰子でした。 「坂本真由子さんからよ」 と断ってから、朝日奈泰子は母真由子と話し出しました。 「……もしもし、そうなのよ。ええ、ええ。まだ、もう少し時間がかかりそうね。ええ、……うん、大丈夫。こっちは任せてもらっていいわよ」 話し終わると、朝日奈泰子は全員を眺めまわし、 「真由子さん、ちょっと、どうしても外せない講演があるからって、くれぐれも、みなさんによろしくお願いしますって。 もうすぐお昼だから差し入れを届けさせます、ですって」と言いました。 「そんなの、気にしなくていいのに」 「律儀な人なのよ」 「さすが、上場企業の重役まで行く人だわ」 女たちが口々に誉め称えました。 ……母は、自分の実の息子が、急進的なフェミニストたちに捕らえられ、 全裸で集団リンチを受けていることを知っているのかな……ふと、そんな疑問が頭をよぎりました。 (が、恐ろしい朝日奈泰子や、越石さくらたちと知り合いということは、もちろん母はこの部屋で何が行われているか十分承知しているということなのでした) さっそく部屋のチャイムが鳴り、デパ地下の紙袋を両手にさげたスーツ姿の女(年齢は二十代後半くらい)が現れました。 「あ、よかった〜。808号室へ行ったら誰も出ないので、こっちの部屋にいたんですね。あ、わたし、坂本真由子の秘書をしております、綿貫真梨絵と申します」 やや息を弾ませて登場した彼女は、従姉の水上麻衣子にデパ地下の袋を二つとも渡すと、「お邪魔しても大丈夫かな……」と言いながら、部屋の奥に入って来ました。 「あ、デパ地下のローストビーフ・サンドが入っているから、どうぞみなさんで召し上がって」 「わあ、うれしい。どうもありがとう」 「これ知ってる。並ばないと買えないのよね」 「坂本真由子からの差し入れです」 「うれしい!」 この状況で、女たちは昼飯を食べるつもりなのか……。 秘書の綿貫真梨絵は、感嘆する女たちをしり目に、まっすぐ僕の前にやってきました。 これまで女たちからさんざん凌辱されたにも関わらず、ここへ来て新しい女が現れると、 自分が一糸まとわぬ裸であることが改めて意識させられ、恥ずかしいという気持ちがよみがえります。 (今までは恐怖と苦痛の方が大きくて、恥ずかしい気持ちは若干麻痺していました) ちなみに両手を後ろ向きに拘束されているので、恥ずかしい部分を隠すこともできません。 「こら!あなたがひろ君ね」 そう言って、彼女は僕を睨みつけました。 「お母さん、泣いてたぞ!!」 僕は初対面ですが、いつも母に付き従っている有能な秘書がいたことを思い出しました。(妹の真保や、 叔母の水上裕美子、従姉の麻衣子たちとは顔見知りのようでした) 綿貫真梨絵は全裸の僕を見下ろし、 「ちゃんと反省してるの?」と言いました。 「あなたのお母さまに言われて、反省しているか見届けに来たのよ」とも。 「まだまだ、ちっとも反省できてない」 越石さくらが、意地悪く口をはさみました。 彼女は、ローストビーフたっぷりのサンドウィッチをかじりながら、 「ちゃんと反省するまでは、あんたはお昼ごはん抜き」と言いました。 「アハ、それじゃ、彼の分もいただいちゃおうかな♪」 榊美華が豪快に二個目に手を伸ばしました。 オマエラ、ローストビーフ食ってないでダイエットしろよ! 心の中で悪態をつくことだけが、僕にできる精いっぱいの抵抗です。 「反省してないって、どうして?」 綿貫真梨絵が、わざとらしく聞き返します。 「女の人たちに、ここまでやられて、まだ反省できてないって……」 「ふふふ、この子、実はエムなのよ」 元キャスターの小宮さなえが、待ってましたとばかり、口を開きました。 「えっ、それ、どういうこと?……まさか」 「さあ、どういうことでしょうねえ」 小宮さなえがサンドウィッチの油でぬらぬら光る唇をなめながら言いました。 「あなた、さっき、どうしてボッキしたのかな?」 さっきまでのいじめネタを、"新人"の綿貫真梨絵に披露します。 「本当に、勃起したの?」 「そうよ!おばさんに責められて、ビンビンだったわよね」 小宮さなえが、意地悪な顔をゆがめて言います。 「今は、もう、たたないか……」 そう言って、彼女は、僕の下半身に手をやり、亀頭をおおっている皮をギューっと引っ張りました。 「痛い痛い!!」 それは、ローストビーフ・サンドを差し入れた綿貫真梨絵に対して、 (こんな風に虐めてやってもいいのよ!)と、教えているみたいでした。 女たちは各自差し入れのサンドウィッチを食べ、野菜ジュースのパックをすすりながら、また僕の周りに集まって来ました。 「……それは、どう考えても、おかしいでしょう。女権委員会のお仕置き最中に、オチンチンを固くするなんて。聞いたことないわ。 あんた、まさか、ホントに、女の人たちに責められて、興奮して喜んでたんじゃないわよね?」 綿貫真梨絵が僕の下半身を見つめながら言いました。 「答えなさいよ」 「本当はドエムなんじゃないの?」 「じゃあ、ちっとも反省しなかったことになるわね」 「やだ、ヘンタイ」 サンドウィッチを食べ終わった女たちが、全裸の僕を取り囲み、さっきまでのいじめネタをくり返します。 「どうしてボッキしたのかって聞いてるのよ!」 叔母の水上裕美子が、オレンジジュースのパックをすすりながら、言いました。 「ほら、おばさんの質問に答えろ!!」 越石さくらが、僕の頭髪をつかみ、顔を上に向けさせました。 「どうしてボッキなんかしたの?女の人たちにお仕置きされて、感じちゃったの?」 綿貫真梨絵が、僕の顔をのぞき込んで言います。 「…………喜んでなんかいません…………」 小さな声で、僕は答えました。 「じゃ、どうしてボッキするの!」 「……………………」 僕が無意識に助け舟を求めて、水上麻衣子と目が合うと、彼女はさっと後ろに逃げてしまいました。 その様子に気づいた叔母の裕美子は、ふふっと笑い、 「ちゃんと答えないと、またみんなの前でボッキさせるよ!!こっちには、勃起クスリがあるんだからね」と、言いました。 彼女は、冗談で言っているのではないというように、僕の目の前で、オレンジ色の錠剤(女医の新妻千枝子は、"サヴィトラ"と言っていました。たぶんバイアグラの一種です)を剥いて見せました。 「……それ、バイアグラですか?」 綿貫真梨絵が言いました。興味津々という顔つきです。 「バイアグラではないけど、似たような後発薬品よ」 女医の新妻千枝子が説明します。 「さっきも話したんだけど、性的興奮をもたらす薬ではないから、無理やり飲ませてもボッキしないわよ」 「あ、そうなんですね」 綿貫真梨絵が、水上裕美子からオレンジの錠剤を受け取りました。 「じゃ、これ飲んで万が一ボッキしたら、わたしたちにイジメられることで、性的に興奮したってことになるわね」 「ははは、なるほど、そうかもね」 「ためしてみる?」 女医が言うと、綿貫真梨絵は目をキラキラさせて、 「え!見たい!!」と言いました。 |