[10] 「さくら、向こうの部屋まで、声つつぬけだよ」そう言って、部屋に入って来たのは、"ひとりママネット"(シングルマザーの団体)を主宰する榊美華という女でした。 『榊法律事務所』に所属する弁護士だそうです。グレーのパンツスーツを着ています。 フェミニズムの有名な弁護士である榊英恵の娘だと言っていました。 年齢は、28、29歳くらい。 「さくら、いくら若い男の子好きだからって、あんまりいじめちゃダメよ」 「だって、こいつ、あたしたちの前で、完全に委縮してるのに、強がってて面白いんだもん」 そう言って、越石さくらは、僕の目の前で、榊美華に口づけをして見せました。 しかも、お互いに舌をからませる本格的なディープキスです。 僕が驚いて見ていると、越石さくらは笑い、「わたしは、若い男よりも、女同士がいいわ」と言いました。 弁護士の榊美華は、若い女を一人連れていました。 松浦希空(仮名)という、陰のある女でした。 顔の下半分をマスクでおおい隠し、前髪を垂らしています。 "性被害体験者の会"に所属しているということです・・・・。 「松浦さん、よく来てくれたわね」 朝日奈泰子が、そう言って、彼女を迎え入れました。 「希空(のあ)ちゃん、もし、途中で気分が悪くなったりしたら、いつでも出て行っていいからね」 越石さくらも言い、松浦希空を、部屋の奥にあるソファーベッドに座らせました。 「いえ・・・・大丈夫です」 松浦希空は、それだけ言うと、緊張した面持ちでソファに腰かけました。 過去になにか辛いことがあって、男を憎んでいることだけは、彼女の様子を見れば分かります。 何があったにせよ、僕のせいじゃないのに・・・・。 しかし、これが女権委員会のやり方なのでした。 |