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 朝日奈泰子は、母親と叔母さんを伴って、別室に消えて行きました。
 ちらっと姿が見えただけですが、いつの間にか、妹の真保と、叔母さんの娘麻衣子(僕から見ると年上のいとこ)まで呼ばれて、別室で事情聴取されるらしいです。
 僕の側には、越石さくらという名前の35歳くらいの女が張り付いています。
 彼女は、色白で、おかっぱ頭に、赤いフレームの眼鏡をかけており、どこか漫画じみた風貌をしています。
 さっきまで赤ジャージ軍団の指揮をしていた女性です。赤いジャージ軍団の中でもひときわ目立っており、ただのボランティアではなく、筋金入りのフェミニストです。
 朝日奈泰子の"ラブ・ピースクラブ"に所属しています。
 作業部屋みたいな"取調室"で二人きりになると、彼女は僕の首筋に手を伸ばしました。
 「あなた、若いわね。大学生?」
 僕は、取り調べ用の椅子に座ったまま、固まってしまいます。
 「ここが、どういう場所だか、知ってる?」一方的に、彼女は続けました。
 「どんな男でも、かならず最後は、泣いて土下座をして、許しを請うようになる・・・・女権委員会のアジトよ」
 越石さくらの吐く息が、温かく感じられました。
 「あなたみたいな男の子が、耐えられるわけがないわ」
 そう言って、彼女は僕の耳を引っ張りました。
 「ここの委員は、みんな心の底から男を憎んでいるから、あんたみたいな若い男なんて、きっと、滅茶苦茶よ」
 ジャージ越しに、越石さくらの薄い胸を感じました。
 僕は思わず彼女の手を振り払い、「ふざけんなよ。フェミババアめ!!」と言いました。
 その瞬間、越石さくらが僕の顔面を張り飛ばしました。
 眼鏡が床に落ちます。
 越石さくらは、それを拾い上げ、僕に手渡しました。
 「なんで、お前たちみたいな女に、こんなことされないといけないんだよ!!」
 僕は、眼鏡を受け取ると、越石さくらの手を、ぱちんと叩き返しました。
 越石さくらは、手の甲をさすりながら、やや苦笑気味に、
 「あなたみたいに若い男が、ここへ連れて来られるのは、めずらしい事態なの。 あなたに対する取り調べは、みんな、いつも以上に、念を入れて行おうとするはずよ。 逆らったり、ふざけた態度をとると、どんな目に遭うか分からないってことよ。忠告してあげてるの、分かった?」
 と、脅しだが忠告だかよく分からないことを言いました。
 僕は、彼女を睨みつけ、「ふざけんな、お前たちの思い通りにはならないからな!!」と叫びました。
 「・・・・言っておくけど、あたしは、あなたのためを思って、忠告してあげたんだからね。そのことを忘れないでね」と言いました。

    
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